【小説】『駆逐艦キーリング』管理職の苦悩を垣間見ました

最近、銃をばしばし撃つ小説をいくつかご紹介しましたが、今回は銃の代わりに爆雷をばしばし投下する小説をご紹介します。

それは『駆逐艦キーリング』というセシル・スコット・フォレスターさんという方が書かれた小説でございます。

第二次世界大戦中、大西洋をイギリスへと渡る37隻の輸送船団とそれをドイツのUボート(潜水艦)から護衛する4隻の護衛艦のお話であります。

主人公はその護衛艦隊指揮官で駆逐艦キーリング艦長のクラウス中佐でして、そのクラウス中佐を中心に話が展開するのです。

ちなみに、キーリングはアメリカの駆逐艦ですが、その他の護衛艦はイギリス、カナダ、ポーランドと、なかなかグローバルな連合艦隊なのでして、この設定が少し物語に関わってきたりもします。

護衛艦隊とUボートの戦闘もこの小説の見どころのひとつではありましたが、私としてはUボートとの戦闘もそうですが、そういったのを含めた数々の状況にクラウス中佐が何を考えてどう判断するかというところが面白かったのであります。

元平社員で現無職の私ウサオジは、この小説を通して管理職の苦悩を垣間見たような気がします。

 

このクラウス中佐という人物は護衛艦隊の指揮官としてキーリングを含む4隻の護衛艦、そして護衛対象の37隻の輸送船に対して責任を負っており、いわゆる管理職のような立場でございます。

ですので、この艦隊のあらゆる決断は最終的にクラウス中佐がその責任を負わなければいけません。

私といたしましてはもうこれだけで胃がきゅうきゅうしてしょうがないのですが、それだけではないのです。

それに加えて、無線封止のために司令部いるさらに上の人々に相談することも許されない厳しい状況でもあるのです。

あらゆる決断を自分で下し、それを背負わないといけないのでございます。

もう胃がきゅうきゅうしてきて胃がいくつあっても足りない気がするのですが、それでも物語は進むのです。

さて、責任という面でここまで語ってきましたが、次は判断についてもちろちろ書いていきます。

この判断というのがなかなかに難しいものでして、例えば敵のUボートを遠くに発見したからと言って、必ずしも攻撃したら良いというものではないのでございます。

攻撃に出たらその間は船団の守りは薄くなりますし、敵の捜索、戦闘や船団への復帰で弾薬や燃料も消費します。

一方で、守っていれば大丈夫というわけでもなく、Uボートに接近を許してしまい大惨事になることだってございます。

それに加えて、戦闘するにしても面舵を取るのか取り舵を取るのか、どのタイミングで爆雷を落とすか、あるいは味方艦とどう連携を取るか、そういった細かな判断も重要になってきますし、そういった判断は1秒を争う大変なものであります。

また、船団と言ってもそれを動かしているのは人間でありまして、人間が人間であるがゆえの問題もあるのです。

乗組員の疲労や士気の問題もありますし、それぞれの技量にも気を配らねばなりません。

そして上で書きましたように多国籍の船団ですので、各種判断やコミュニケーションでへまをしてしまえば国際関係がとっちらけになる可能性もありまして、そういったところにもクラウス中佐は配慮しないといけないのです。

もちろん、クラウス中佐自身の名誉の問題もからんでくるので問題はさらにややこしいことになります。

 

という感じでございまして、クラウス中佐がとにかくめちょめちょ管理職なのです。

仕事への対応、部下の面倒、資源の管理と、忙しいことこの上ありません。

その肩にのしかかる重圧は物凄いものなのです。

そして文字通り、クラウス中佐は「休む暇もない」のでございます。

作中ではクラウス中佐は何時間もぶっ通しで、ときには睡魔とも戦いつつも、それでも艦橋に立って命令を下し続けるのです。

指揮官としての意地と威厳を感じました。

そんな作品ですので、管理職未経験の人は管理職が抱えるものを想像して、管理職経験者の人はクラウス中佐のプレッシャーを思って、みんなで胃をきゅうきゅうできる実に素晴らしい作品でございましたので、組織で働く方が読んだらきっと楽しめるのではないかと思った次第であります。

おしまい。

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