『星系出雲の兵站』兵站でございます

連休最後の日ということで、時間のあるうちにこの前まで読んでいた小説シリーズの感想でも書くとしましょうかねえ。

つい先日まで私は「星系出雲の兵站」という小説シリーズを読んでおりまして、これがまあなかなか面白かったのでございます。

ちなみにこれは「星系出雲の兵站」だけで4冊、「星系出雲の兵站 ―遠征―」で5冊の、計9冊という大長編でございました。

さて、これは人類と未知の宇宙人との戦争を描いた作品でございます。

太陽系を離れ、出雲と呼ばれる星系を始めとする5つの星系に移住して文明を築いた人類が、あるとき未知の文明のものと思われる構造体を人類の5つの星系のうち1つの星系内で見つけてしまうわけでして、それを皮切りに宇宙人との戦争に突入していくわけですねえ。

ちなみに、この敵性宇宙人は作中でガイナスと名付けられておりました。

ところで、この小説の面白いところは、タイトルにもある通り「兵站」、つまり物資の確保に着目しているところでございまして、著者はあとがきでこう書いております。

子供の頃から疑問に思っていたことに、TV・映画などで地球を侵略に来る宇宙人への疑問があった。どうして彼らは地球人より高度な技術を持っているのに、負けてしまい、そして一度負けたら、二度と地球に来ないのか。

一方で、同じ宇宙人が1年間、いろいろな作戦で毎週攻めてくるというパターンもあった。結局、彼らも負けてしまうのだが。

技術的に優位な側が負けてしまう筋の通る理由を考えると、やはり兵站にあるのではないかと思う。

引用:『星系出雲の兵站1』

「どうして彼らは地球人より高度な技術を持っているのに、負けてしまい、そして一度負けたら、二度と地球に来ないのか」、この疑問の答えは、宇宙船で攻めてくるだけだと宇宙船に積んであるだけの資材を使い切ったらもう戦えない、とあとがきには続けて書かれておりましたが、つまりそういうことでございます。

というわけでして、この作品ではそういった手合いの宇宙人連中とは違って、一度負けても何度も戻ってくるような宇宙人ガイナスが現れるのですが、その敵は物資を補給するための基地を持っているのでございますよ。

最初は銃やら大砲やらを持っている人類の歩兵に対して槍で挑んでくるような敵なのですが、次第に学習して銃やら何やらを持ち出すようになり、そんなこんなで戦いを繰り返すうちに人類と互角以上に戦うようにもなったりもします。

そしてしまいには200隻近くの宇宙戦艦を人類の居住する惑星にけしかけてきたりもするので、ガイナスはとんでもない強敵でございますねえ。

ともあれ、人類もこのしつこい敵に対して兵器の改良やら工場の生産性の向上やら基地の建設といった兵站の改善などによって対抗するのでして、単純に正面から撃ち合うだけが戦いではないのでございます。

戦いは撃ち合う前から始まっているといった感じですねえ。

そしてこれは戦争においてではなく、何事にも言えるのではないかと思うのでありまして、何かをしでかすためにはその前の段階でいかに用意周到に計画を立てるか、準備を整えるかが大切なのではないかと思いますよ。

つい数日前、用意周到とは全く対極の位置にあるような行き当たりばったりの計画で旅に出た私が言うのですから間違いありません。

実際に旅に出てみたら、必要最低限のものはあったから良かったものの、あれも足りないこれも足りないとなったのは言うまでもありませんねえ。

以前読んだ「シリア・サンクション」という小説には、「作戦は敵と遭遇した途端に吹っ飛ぶ」と書かれておりましたが、それでもやはり作戦は必要なのでございますからして、作戦がなければ敵と遭遇すらできないのでございます。

兵站と作戦、計画とではちょいと違った意味合いになってきてしまいますが、要するに準備は大切ってことでございますよ。

そういえば作中ではこんな強烈な言葉でも表現されておりましたねえ。

忘れるな、英雄などというものは戦争では不要だ。為すべき手順と準備が万全なら、英雄が生まれる余地はない。勝つべき戦いで勝つだけだ。

英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎん

引用:『星系出雲の兵站1』

さて他にも、ガイナスとの戦争において人類も一枚岩ではなく、同じ人類間でも政治的な争いがあったり、あとはガイナスに対してコミュニケーションを取って戦争終結を試みたりとなかなか面白い要素がてんこ盛りでした。

特にガイナスとのコミュニケーションについては、遠征編の方で大きなテーマのひとつになってくるのですが、人類の言葉が通じないどころか思考様式も全く違う異星人とのコミュニケーションを取るところはなかなかに強烈でございますよ。

そもそもガイナスに何の意図があって戦争をけしかけてきたのかすら不明の中、人類は言葉も通じない相手にコミュニケーションを取ることによって戦争の終結を目指すのですが、一体これはうまくいくのでしょうかねえ。

あるいは交渉がうまくいかない場合は、どちらかが絶滅するまで戦争することになってしまいます。

というわけでして、果たしてこの戦争の結末やいかに、って感じでございます。

なんと言いますか、1つ問題を解決したと思ったら今度はまた新しい袋小路に迷い込む、そんな小説でございましたよ。

未知との戦争はえらいこっちゃでございます。

ともあれ、内容も文章量もなかなかハードな作品でしたが、連休のような時間のあるときに読むにはうってつけの大作でございました。

おしまい。