『ブラックライト』隠された悪事を暴きます

昨日は『ブラックライト』を観てまいりました。

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この作品は、FBIで「フィクサー」と呼ばれる特殊な仕事に就いている男が、巨悪に立ち向かうお話でございます。

FBI長官直轄で動き、心身に危険が迫ったFBI捜査官を救出するという極めて特殊な仕事「フィクサー」の任に就いている年老いた男トラヴィス・ブロック、そんなトラヴィスがFBIの同僚から「FBIが一般人を抹殺している」という情報を得てしまい、しかもその同僚がこの驚愕の事実をジャーナリストに垂れ込もうとした途端に怪しげな連中に襲われ殺されてしまったことをきっかけに、FBI職員であるトラヴィスがFBIと闘うことになるという、ヤバい陰謀のオイニーがむんむんの映画でございます。

さて、本作の黒幕は、市民を守るための組織であるFBIの長たる存在、つまりはFBI長官その人でございます。

FBI長官としての権力をほしいままにし、表向きにはFBI長官としてのまっとうな職務を果たす裏で実はとんでもないことをしでかしているという、要するにまあクソ外道というやつでございます。

しかも「お前の悪事を全部暴いてやるぞ」と迫るトラヴィスに対して、その孫や娘に手を出したり、トラヴィスの過去の違法行為を全部公にするぞと逆に脅したりもする、正真正銘のクソ外道。

クソ外道ここに極まれり、といったところですねえ。

さて、長々とあらすじを書いてしまいましたけれども、要するにこれは権力と支配について描いた作品だったように感じます。

それについて、この映画を観ていてふと思い出したのは以前読んだ『ターミナル・リスト』という小説でございまして、こちらの小説では一人のアメリカ軍人がその管轄省庁のトップにして事件の黒幕の一人でもある国防長官やその一味のクソ外道どもと戦う姿が描かれておりまして、なんとなく『ブラックライト』と設定が似ている気がしないでもない感じでございました。

特に、この小説の著者まえがきに書かれていた内容が『ブラックライト』にも通じているように思えましたので、引用しておきましょう。

また、本書は支配に関する本でもある。公衆の安全はあらゆる犠牲を払って守るべきであり、その美名のもとに、連邦レベルに権力を集中させることが世の趨勢となっている。少しずつとはいえ、そのように個人の権利が制限されていけば、自由がゆっくり死ぬだけだ。今や連邦政府には、だれでも好きな人を狙い撃ちできるほどの権力が集まっている。

引用:『ターミナル・リスト 上』

この「今や連邦政府には、だれでも好きな人を狙い撃ちできるほどの権力が集まっている」というのが、まさしく本作でもその通りでしたねえ。

ど初っ端から政権批判をする議員候補者がFBIの暗殺チームに殺されておりましたし、その後はFBIの秘密をばらそうとするFBI捜査官、そしてその裏切り者のFBI捜査官のタレコミを記事にしたジャーナリストと続きまして、要するに政府に不都合な者たちを次々に狙い撃ちにしておりました。

そんな権力とか支配について描いたところが、『ブラックライト』と『ターミナル・リスト』で共通しているのかなあと思いましたねえ。

ちなみに、このタイトルの「ブラックライト」というのは、紫外線を発する電灯のことでございますけれども、普通の電灯では見えないものをブラックライトを当てて浮かび上がらせるように、一般人の目から巧妙に隠されて見えなくなっているFBIの悪事を暴くことを掛け合わせて付けたタイトルっぽいですよ。

作中にそんな風に言及しているシーンがありました。

さて、そんなこんなで面白い設定を盛り込んだ『ブラックライト』ですけれども、ひとつイマイチだと思ったのが黒幕の動機ですねえ。

そもそもなんであのFBI長官が政府に歯向かう連中を極秘に暗殺していたのか、その点がなんとなくぼんやりしたままでした。

これが政治家のお偉方が黒幕なら納得できるのですけれども、一役人であるFBI長官がそんなことをするのは一見筋が通らないように思えますよ。

ここで納得できるような物語を想像するなら、FBI長官が権力の座に縋り付こうとする政権から圧力をかけられるかカネで釣られるかした結果、その手先として暗殺を実行していたってところでしょうかねえ。

『ターミナル・リスト』にも、こんな一節がありましたし。

権力とカネは、自己利益しか人生の目的を持たない連中にとってはとてつもなく大きな動機になる。

引用:『ターミナル・リスト 下』

あるいは、誰に強制されたわけでもなくFBI長官が自分自身の意志で現在の政権を守ることが国にとって最善の方法だと信じた結果がこの一般人殺しだったとすることで、国が一般人に手を出すことはあってはならないと考えるトラヴィスたちと正義についての考え方を対比させても面白かったのかもしれませんねえ。

ともあれ、普段は正義の側にいると思った存在が実は悪者だったという設定が印象的な、ちょいとダークなサスペンスアクション映画でした。

おしまい。