昨日はあの『オットーという男』を観てきました。
原作と同じく、相変わらず主人公は仏頂面のとっつきづらい厄介な頑固オヤジでしたし、鑑賞後には人間の温かみを感じるようなお話でございました。
とりあえず、物語の大筋の部分は原作『幸せなひとりぼっち』をかなり踏襲しておりましたから、物語自体に対する感想はこの前の記事を読んでいただくとして、今回の感想はハリウッド版リメイクならではのところについて書いていきましょう。
さて何はともあれ、この作品と言えば自動車絡みのことについて語らずにはいられますまい。
というわけでして自動車なのですけれども、原作のオーヴェに違わず本作のオットーも自動車メーカーにこだわりの強い人間でしたよ。
が、しかし、今回はスウェーデン人のオーヴェではなくアメリカ人のオットーですから、もちろんメーカーはサーブではありません。
シボレーでございます。
オットーはシボレーに乗っておりました、無論、マニュアル車の。
そして原作の見所のひとつでもある隣人との自動車バトルももちろん本作に盛り込まれておりまして、これもなかなかアメリカンな仕上がりになっておりましたねえ。
自動車バトル、といっても何もこれはアクション映画のようなカーチェイスではありません。
お互いがお互いに買い替えた新車を相手に披露して自慢するという、なんとも生活感あふれる対決なのですよ。
原作ではスウェーデンの国産メーカーであるサーブとボルボが戦っておりましたが、本作ではアメリカの代表的なあのメーカーで対決しておりました。
そして最後はオットーの隣人にしてライバルのルーベンがアメ車から一転して外車を繰り出してオットーとの間にできた軋轢を決定的なものにしてしまうわけですけれども、本人たちにとっては笑い事ではないのでしょうが、観ている私としてはやっぱりこれには笑ってしまいましたねえ。
愛車のメーカーを変えただけで忠誠心がどうのこうのと言って憤慨する、というところがなんとも言えない味わい深さがあって面白い。
ところで、これを日本でリメイクするとしたら、やっぱり主人公の車がトヨタでライバルの車は日産とかになるんでしょうかねえ?
それで結局、ライバルが最後に韓国メーカーのヒョンデの車に乗り換えて、主人公が憤慨して終わるところがなんか見えた気がしますねえ。
さて他には、オットーが人助けをしてジャーナリストに追っかけられるようになるあたりは、現代風にアレンジしておりました。
事件が起こると周囲の人が一様にスマホを出して撮影し、SNSに投稿する。
そんなところが実に現代らしくて面白く思うと同時に、一方でなんでもすぐにスマホで撮影しようとする風潮になんだかなあと思わないでもないようなシーンではありましたが、もしかするとそういった新しい風潮に「なんだかなあ」って思うようになるところが、頑固オヤジになるための第一歩なのかもしれませんねえ。
とりあえず私も、まずは眉間にしわを寄せて近寄りがたい印象を作るところから始めてみた方が良さげでございますか?
ついでに「懐中電灯の指」も使いこなせるようにしたいところでございます。
ともあれ、最終的にはそんな現代のSNS投稿文化を利用して、あくどい手を使って隣人を家から追い出そうとする悪徳不動産屋を撃退するというところが実に今っぽいなあと思いました。
そんな感じで、ところどころがアメリカ風、現代風にアレンジされておりましたけれども、全体としては原作をうまくハリウッドでリメイクしたといった印象を受けましたねえ。
原作の印象的なシーンをできる限り拾いアレンジして再現しておりましたし、原作で描かれたテーマのひとつでもある「隣人たちが頑固で孤独な気難しいオヤジの心を温めていく」というところはきっちり再現できていたなあと思います。
とは言え実は、しかし原作を読んでいたこともあって、「懐中電灯の指」を突き付けて怒鳴りつけてやりたくなることもなくはなかったのですが、これは個人の主義の問題も多分に含まれていることですし、まあ今回ばかりは目を瞑ってやりましょう。
また、これも解釈の問題なのかもしれませんが、なんかオットーが思いのほか優しい表情をするシーンが多かった印象でございます。
もちろん原作は小説なので文字と映像では受ける印象が違うとは思いますけれども、それでもオットーの方が表情に人間味があるような気がしましたねえ。
原作のオーヴェは、不機嫌以外の感情をほとんど表に出しませんでしたから。
中盤以降、ちょいちょいオットーが柔らかい表情を見せるシーンが増えてきて、心情の変化がじわじわ滲み出てきておりました。
というわけでして、『オットーという男』、これはなかなかうまく原作をハリウッドで作り直した映画だと思いました。
面白かった。
おしまい。