先日は『ランガスタラム』を観てまいりました。
軽快で小気味よいシーンと殺伐としたシーンの不協和音が印象的な映画でございました。
さてこれは、インドの田園地帯にあるランガスタラム村という村を舞台にした映画でございます。
ランガスタラム村に暮らすチッティ・バーブという難聴の男はモーターを使って畑に水を撒くことで生計を立てているのでして、ある日、同じ村に住む女性に惚れてしまうのでございます。
一方この村はプレジデントを自称する悪徳村長による支配下にあり、村人はプレジデントとその取り巻きによって搾取されておりましたが、しかし、ドバイの出稼ぎから帰ってきたチッティの兄クマール・バーブは故郷の惨状を前に、次期村長を決める選挙に立候補することを決意するわけでございますよ。
しかしながら汚職政治家のプレジデントが大人しく村長の座を譲るわけもなく、当然のようにそこで一波乱あるわけですねえ。
と、そんな内容なのですけれども、一方はチッティが面白おかしく暮らす様子と陽気な音楽、もう一方はプレジデントの支配とと暴力とで、シーンの緩急がなかなか忙しい映画でございました。
陽気なシーンと陰惨なシーンが代わる代わる現れるわけですけれども、その忙しさがまるでサウナと水風呂を行き来しているような感覚でございましたねえ。
さっきまで陽気なダンスシーンだったと思いきや、気づけば殺し合いが始まっていたりと、よくもまあこんな構成を思いついたものだと驚くばかりでございます。
この抑揚の落差が本当にとんでもなくて、村を挙げてのお祭りシーンみたいなのがあったと思いきや、ソ連の国旗か『K.G.F』シリーズくらいでしか見たことが無いようなえげつない形状の鎌を持ち出して悪いやつが殺しに来るわけですよ。
さて、ダンス有り、アクション有りと、ここまでは普通のインド映画のような気もしますけれども、この映画の本当に凄いところはジャンルの枠を超えているところでございます。
ダンスやアクション以外にも、この作品にはとんでもない仕掛けがこの作品には施されておりまして、しかもそれだけではなくインドの階級社会について穿ってもいる異色の作品。
とにかくいろいろな視点で楽しめました。
しかし何はともあれ、私が一番印象に残ったのはチッティのキャラクターですねえ。
表情から動きや話し方まで、何から何までコミカルで軽妙な感じが面白い。
とりわけ、相手の話が聞き取れなかった時にやたらめったら大袈裟に耳をほじったり耳に手をあてたりするのでコントみたいでしたねえ。
他には、序盤の兄のクマールが帰ってきたときのシーンも面白かった。
最初はクマールがドバイへ出稼ぎに行く前に喧嘩したのを引きずって不機嫌にしているのですが、クマールが「悪かった」と言った途端にご機嫌になるのですよ。
それで機嫌を良くしたチッティが口を開いたと思いきや早速「それでお土産は?」とお土産をせびるのでして、その途端、今度はクマールが機嫌を損ねるわけで、とにかく仲良しな感じが伝わってきて面白かった。
その後クマールは「お土産はまた今度だ」とか何とか言ってきつく当たるのですが、なんだかんだ言って実は買ってきているのですよ、お土産を。
そしてそのお土産というのが、アビエーターサングラス。
まさかこんなところでアビエーターが登場するとは!
お土産のアビエーターを手にしたチッティはうっきうきでアビエーターをかけるのでして、何だったら夜になっても外さない始末。
その後も事あるごとにアビエーターをつけてチッティは登場するのですが、アビエーターのワイルドな感じとチッティのふざけた様子がとにかくちぐはぐで面白おかしい。
しかし、アビエーターチッティの面白おかしい様子が続いたと思いきや、後半になるにつれて不穏な話がどんどん噴き出してくるわけですねえ。
前半あれだけ笑わせてコメディ映画かと思わせてからの、村長選を巡る政治スリラーですよ。
もはや一体何をどう考えたらあんなシーンや展開をひとつの映画に一緒くたにできたんだと思う他ありませんよ。
ともあれ、そんな感じでなんとも自由でインパクトのある映画でございました。
おしまい。