『ヒトラーのための虐殺会議』に出席してまいりました

昨日は会議に出席してまいりましたよ、『ヒトラーのための虐殺会議』に。

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昨日、仕事を終えて家に買って一息ついていると、もう風が荒ぶる荒ぶる。

窓やらドアやらがもうガタガタガタガタうるさくてかなわんのでして、こりゃあもう公共交通機関も止まって映画館へは徒歩で行くことになるのも覚悟しておりましたけれども、私が発つ頃にはもう既に落ち着いてきておりまして、結局は多少の遅延だけで済んでおりましたので、無事に行くことができましたよ。

さて、そんなこんなで無事に会議に出席できたわけですけれども、いやあなんとも異様な会議でしたねえ。

議題はサイトにも記載されている通り、「1,100万人のユダヤ人絶滅政策」。

ちなみに、いきなり「1,100万人」といわれてもパッとしないので調べてみたところ、2022年10月時点の東京都の人口がおよそ1,400万人(参考)ですから、東京都民の約8割、つまり10人中8人をターゲットにした政策だと思っていただければと思います。

東京都民の皆様、ご愁傷様でございます。

ともあれ、この政策の実現のために、関係各所の利害を調整し、より良い方策を練るのが今回の会議の主な内容でございます。

映画の冒頭では、まさしく「お歴々」と呼ぶにふさわしい出で立ち、面構えの関係各所の錚々たるお歴々が会場となる立派なお屋敷に黒塗りのベンツに乗って続々と集まってきて、会議前に雑談なんかをしているうちに会議開始の時間になったので、さっそく会議が始まりました。

それで、この会議の一体何が上に書きましたように「異様」だったのかと申し上げますと、議題がやたらめったら物騒なのにも関わらず、何の変哲もないいつも通りの会議みたいな感じで話が進むことですよ。

観ていて、なんで自分が呼ばれてるのか分からない職場の会議に出席しているときのような気持ちになりましたねえ。

一言で言うなら、「つまらない」。

議題がとんでもなくとんでもないのに、会議自体は本当に味気なくてつまらないんですよねえ。

便宜を図らってもらおうと画策したり、面倒事を他の部署に押し付けようとしたり、あるいは上の連中に良い顔をしようと張り切ったりしつつも、目標達成のための道筋をどうにか見つけようと頑張るどっかの知らないお偉いオジサンたちがやんややんやとやりあう会議を見せつけられる約2時間。

特に山場や起承転結があるわけでもなく、オジサンたちのビジネス会議を観察する2時間でございます。

本当にもう盛り上がりとかが何にもない。

映画フィルムをパクってしまう少年もいなければ、街を爆走する女ドライバーもいないし、肩車して大暴れする二人組もいませんから。

そんなこんなで、あれよあれよという間に、なんてこともなく政策が決まってしまうんですよねえ。

さて、そんな感じで一見したところ映画としてはこの上なくつまらないのですけれども、しかしながら、これが見方によっては面白かったりするんですよねえ。

つまりは、誰かにとっては命に関わる一大事であっても、他の誰かにとっては右から左へ物を動かすように処理されるだけの出来事だったりするってことですよ。

ユダヤ人にとってはたまったもんじゃありませんけれども、会議に出ているナチスのお歴々にとってはちょいと厄介な日常の一仕事くらいな感じで処理されていくのでございます。

このアンバランスでちぐはぐな感じが、どうにも狂っていて印象的でした。

また、とんでもない数の人間を殺そうってのに「人道的」という言葉を連呼するというのも、なかなか記憶に残るところではありましたよ。

作中後半、「人道的」という言葉が連発されるシーンがありまして、それはユダヤ人を殺害する具体的な方法に関する議論でありますけれども、この「人道的」という言葉の使い方がなかなか壮絶なんですよねえ。

そもそも1,100万人も殺そうってんだから「人道」なんてもうどこを探してもありゃしないでしょうよって気がしますけれども、実はこの「人道的」という言葉は、処刑されるユダヤ人ではなくて処刑を実行するドイツ人に向けた言葉なんですよねえ。

最初は銃を使ってポンポン殺してしまえばよろしいみたいな方向で話が進みそうになるのですけれども、さすがそれでは殺す側の負担がでかすぎるということで、ここで満を持して登場するわけですよ、伝家の宝刀「人道的」が。

銃殺だと殺す側のストレスが大きくて精神を病む人間が出てくるとか、あるいは過去の事例における最大の処理効率で行ったとしても1,100万人もの大量の人間を処理するには約500日もの間、昼も夜もひっきりなしに殺し続けねばならず大変であるという意味で「人道的」という言葉が出てくるのでございます。

さてそれではどうするか?

ツィクロンB、つまり毒ガスでございます。

毒ガスなら銃殺よりも効率的にユダヤ人を処理できてしかも「人道的」でもある、ということで早速この人道に関する問題は解決してしまうわけですよ。

いやあ、「人道的」って何なんでしょうねえ?

最後に、会議メンバーの一人、アドルフ・アイヒマンという男の登場シーンがどれもこれもなかなかインパクトがあったということも言っておきましょう。

この男、会議中の発言はあまり多くないのですけれども、議論が行き詰ってくると颯爽と登場して、問題をことごとく解決してしまうその手腕がなかなか鮮やかでした。

先ほど書いた「人道的」の件でも、方法に行き詰ったときに議長っぽい偉い人が「アイヒマン!」と一声呼ぶや否やたちまち現れて、さっさと解決しておりましたし。

というわけでして、アドルフ・アイヒマン、要チェックでございます。

さて、そんなこんなで、「つまらない」と先ほどは書いてしまいましたけれども、なんだかんだ言ってしっかり堪能してしまいました。

いつも観るような映画とは一味違った感覚を味わえる斬新な映画でございましたねえ。

おしまい。