ウサオジという男、『コンクリート・ユートピア』を観る

『コンクリート・ユートピア』という映画を観てまいりました。

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地面がブワーっとなってギャンギャンひっくり返る冗談みたいな規模の大災害に襲われたソウル、その中で唯一倒壊を免れたマンションで一人の男が巻き起こす狂気の物語でございます。

そこには周辺の生存者がなだれ込み、窃盗、放火、傷害などの犯罪が横行する無法地帯となっていたのですけれども、そこで住民たちはマンションの火事に果敢に飛び込み消火にあたったその貢献を買ってヨンタクという902号室に住むなんかいまいちパッとしない冴えないオッサンを代表に選んで自治を開始するのでございまして、まずのその自治の第一歩目は住民以外の人間をマンションから追い出すかどうかの投票を行うこと。

投票の結果、圧倒的多数の賛成によりマンションの住民の生存のためとはいえ住民でないということを理由に氷点下の市内に暖を取る手段も食料も持たない人間をおっぽりだすという、およそ人道的とはいいかねることをしでかすのですけれども、しかしそれはまだ序章に過ぎない。

ここからいよいよヨンタクの狂気が加速するのですよ。

さて、ヨンタクが住民代表の権力を振るい暴れまわる一方で、本作には他にも主人公と呼べる人物がおりまして、それはミンソンとミョンファという夫妻でございます。

公務員のミンソンと看護師のミョンファですけれども、彼らは前代未聞の災害に圧倒されながらも、次第にミンソンはヨンタクに従うようになる一方でミョンファはヨンタクの方法に疑問を持ち良心に従って行動するという違う選択をするのでして、この対比も極限の状況に置かれた人間の対照的な態度を表しており面白く感じました。

また、本作で一番面白いと感じたのは、序盤の周辺の生存者がマンションになだれ込むシーンで、ミンソンとミョンファ夫婦の部屋に生存者が居候するシーンでございます。

ここでは幼い子供を連れた母親がやってくるのですけれども、この親子がまあ厚かましいといったら。

その厚かましさには観ている私ですらうんざりするほどでございました。

しかもマンションの部外者にはさらに窃盗などの犯罪を起こす者までいる始末ですから、うわぁこんなのがマンションのそこらじゅうにうじゃうじゃいると思ったら敵わんなあと思っていたところで、先ほど書いたようにヨンタク代表によっていよいよ満を持して実施された部外者追放投票でございますよ。

映画の観客がマンションの住民でない人間に対して嫌悪感を抱くよう仕向けたところで、すかさずその観客の思いを代弁するかのように部外者の追放を開始するのでして、観ているときは「まあそれも仕方ないだろう」と思ってしまったわけですけれども、これがこの映画の作りが優れているところかと思いましたねえ。

なんというか、まんまと嵌められたといった感じでございます。

いや、別に罠に嵌められたわけではないのですが、やはりこれは本作の制作陣の思う壺に嵌ったと言って違いありますまい。

観ている最中は「そうだ、こんな無法者の外道どもはさっさと追い出してしまえ!」と思っていたのですけれども、しかしすべてを鑑賞後はあれの選択は果たして正しかったのだろうかと疑問に思えてくるのが、本作の恐ろしいところでございます。

人間の狂気と良心、その狭間をさまようようななかなかの力作でございました。

というわけでして、本作は『コンクリート・ユートピア』と称しつつ、その実はコンクリート・ディストピアを描いているという皮肉がこもっているダークな映画だとおもいました。

おしまい。