【小説】『逃亡のSAS特務員』真相は忘却の彼方でございます

今回は我らがクリス・ライアンさんの『逃亡のSAS特務員』という小説について書いていきます。

逃亡のSAS特務員 (ハヤカワ文庫NV)

逃亡のSAS特務員 (ハヤカワ文庫NV)

 

ちなみに、前にもいくつかクリス・ライアンさんの小説は読んでいるのでございますが、やはり緊張感のある内容が非常に面白い。

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さて、というわけでございますが、今回の作品はプロローグが終わったと思ったら主人公ジョシュ・ハーディングが辺鄙な砂漠で目を覚ますところから物語が始まるのです。

初っ端から負傷してまともに動くことすらままならないのですが、しかしながら、記憶を失ってしまったがためにどうしてそんなことになったのか分からんのでございます。

そして現場には一人の子供の死体。

そんなこんなで何がなんだか一向に分からんまま、目の前に現れた女性に助けられつつ現場を後にするのです。

その後は警察やFBIといった保安組織や、なんだか暴力的な臭いのする物騒な連中の追手を振り切りながら手がかりを追って事件の真相を探っていく流れです。

謎の渦中で身動きがとれないときには、あらゆる角度を探らないといけない。さもないと抜け出す道が見つからない。

文中にもある通り、まさにそんな具合です。

と、そんな感じで始まるのですが、この小説のミソは物語の全体像が全く読めない、といったところだと思ったのでございます。

現場にいた子供はそもそも誰でなぜ死んでいるのか、ジョシュはなぜ撃たれているのか、そして誰になぜ追われているのか、そういった諸々の疑問を胸に物語を読み進めていくほかないのでして、ジョシュの記憶が次第に取り戻されているうちに少しずつ事件の全容が分かるようになってくるのでございます。

出口の見えない真っ暗な洞窟を手探りで進む感じ、といったら良いのかもしれませんが、私にはそんな経験がないのでどうとも言えません。

ともあれ、主人公が記憶を失って何がなんだか分からん、という状態から始まる小説は今まで読んだことがなかったのでその設定が斬新で面白かったのです。

私は今までに読んだ大半の小説は敵が誰で何のために戦うのかはっきりしていて、そのうえでどうやって敵を打ち倒すのか、といったところが鍵になっているものでしたが、この作品はそういった土台からもう違っていて目新しさもありました。

そんな感じで、一体何のために誰と戦っているのか分からないけどとにかく戦い続ける、といった小説でして、徐々に事件の全体像が分かってくる推理小説のような面白さがありました。

そして相変わらずの激しいアクションシーンも健在でしたので、安心して楽しめる一冊でした。

おしまい。

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